《MUMEI》
『霧宮 奏』
訓練室に入ってひたすらモールモッドを相手に訓練していると、急に宇佐美から通信が入った。

『奏ちゃん、ちょっと千佳ちゃんに訓練見せてあげたいんだけど……』
「……別に、見られて不都合なことなんてない」
『ありがとー!』

モールモッドの数が更に増える。
刃をかわして弱点を切り裂き弧月を突き立てる度、擬似的に再現されたトリオンの煙が噴き上がる。
その煙が消える頃には、私は訓練室を出ていた。

☆ ★ ☆ ★ ☆

(三輪からメッセージ……?何だろう)

不思議に思いながら、メッセージアプリを開く。

【秀音:酷いことを言ってしまった】

【秀音:すまない】

【秀音:傷つけてしまったか?】

【秀音:不器用で、すまない】

(三輪は優しいな)

どんなに不器用でも、三輪は優しい。
時々言葉が足りなくて思いが伝わらない時もあるみたいだけど、そんなことじゃ三輪の優しさは消されない。

(そんな優しい君だから、好きになったんだ……)

嫌われていない。

分かった途端に溢れ出す涙。

ああ自分はこんなに弱っていたんだなと思うと同時に、嫌われたくないと思った。

★ ☆ ★ ☆ ★

「奏、メガネくんのことどう思う?」
「……頭のいいバカ」
「ははっ、なんだそりゃ」

白い長袖のTシャツを着た迅の胸に顔を埋めると、私より少し高い体温と穏やかな鼓動が伝わってきた。
迅の手が私の頭を優しく撫でる。

「奏はメガネくんのこと気に入るもんだと思ってたんだけどな」
「うるさい。ああいうタイプは最初に死ぬ」
「あ、それ自分で言うんだな……っと、歌姫様は添い寝がご希望か?」
「……うん」

迅のベッドに2人で入る。
小さい頃からずっと、1人が嫌な時にはこうして2人で眠っていた。

(迅って、案外筋肉ついてるんだよな……)

ぎゅっと抱き寄せられて、ぴったり密着した体の感触にどきっとする。

「電気消すぞ……どうかしたのか?」
「あ、ううん」
「そっか。おやすみ」
「おやすみ」

温かい迅の腕の中で目を瞑ると、私の意識はすぐに闇へ落ちていった。

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