《MUMEI》

鉄を打つ音を聞きながら俺は対を見守る

先に生まれた俺はどのような対が生まれるのか楽しみにしていた

段々形が整っていくと作り手の後ろに人の形が少しずつ現れる

そして完璧に姿を現したその者の後ろ姿は兎に角美しい

後ろ姿だけでも分かるその者は"俺の対"

生まれたばかりで状況が飲み込めないのか辺りを見渡している

不安げに潤ませた瞳が見え、少しばかり焦る

「ど、どうしたのだ?」

そう問うても向こうにはこちらの声がまだ聞こえぬらしい

仕方なく美しい俺の対を見つめる

ふと、こちらを見て大きな瞳を見開く

_あなや、なんと美しいのだ…

まだ歩くのに不慣れでぎこちないがゆっくりこちらに向かってくる

俺自身である刀にそっと触れ、優しい手つきで撫で始めた

すると、先程の不安そうな顔は無く、まるで花を咲かせた様に綻んでいた

そのかんばせにほっと息をつき、こちらも顔が緩むのが分かった

すると作り手が此方に向かってくる姿が見え、俺の対はそちらに視線をずらした

作り手の手の上に乗せられた刀はとても美しかった

_早く、その刀に命を吹き込んでくれ

そんな思いが届いたのか、作り手は口を開いた

"お前の名は、水無月宗近"

それと同時に水無月はふわりと何かに包まれた後にへたりと座り込んでしまった

まさに、水無月宗近が俺の対になり、ここに生まれた瞬間だった

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