《MUMEI》
仕事
俊介は裏路地を歩いていた。

秋の生温い風が頬を撫でる。
といってもここは裏路地なので、すぐに冷たくひんやりとしたただの空気に変わってしまうが。

時刻は午後11時。
さあ、仕事の時間だ。

俊介の視線の先に、ひとりの男が立っている。   
誰かを待っているような、少し落ち着かない雰囲気を醸し出している。

「・・・」
気配を殺して、近づく。

男はまったく気づかない。
ふいに、男の視線が自身の手に持つスマートフォンに向いた。
俊介はその一瞬の隙を見逃さず、男のその首へと、ナイフを、

慎重に、

冷静に、

的確に、

刺した。



真っ赤な血が道に広がる。
俊介の身体にも少し返り血が付いた。

俊介はそれには目もくれず、また道を歩き始める。


着いたのは、人の気配がまるでしない廃ビル。
俊介はただ無表情でそのビルの最上階へと足を運ぶ。


長い階段を上りドアを開くと、一人の男がこちらを向いた。
「お、もうやったのか」

「もうやった。早く金よこせ」
俊介は不機嫌そうにそう返す。

「ほんとにやったのかよーw」

「・・・」

「・・・わーかった、ほらよ」

ポンと投げ渡された封筒には大量の札束が入っていた。

「・・・400万か、今回はいつもより少し多めだな」
俊介はペラペラと札束をめくりながら言った。

「・・・また来る、“蟋蟀(こおろぎ)”」

男は満足そうに答える。
「今回のターゲットはかなり邪魔だったからなー、助かったわ」
「また頼むよ、“紅葉(くれは)”」

“紅葉”・・・俊介は男の返事など聞かず、重い封筒を持ち足早に立ち去った。

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