《MUMEI》
校舎の上へ
 ユキナはスッと立ち上がると、どこかへ向かって移動を始めた。
「けっこう燃えてるね」
校舎の表に回ると、家庭科室からの出ていた火は、すでにその階全体に回っていた。
「まさか、この校舎に入るのか?」
ユウゴが不安げに聞くと、彼女は当然のように頷いた。
「上にいい場所があるんだって」
自信満々に答えるユキナに、仕方なくついていくユウゴ。
 警備隊たちもさすがに、火と煙に覆われたこの校舎には近づいていないようだ。

 ユキナは階段を駆け上がり始めた。
二階部分は黒い煙が立ち込め、息ができない状態だ。
目を開くことさえ、ままならない。
それでも二人は怯むことなく三階へと上がっていく。
「……げほ!」
少し煙を吸ったのか、ユウゴは咳き込んでしまった。
ユキナがチラリと振り向くが、目で大丈夫だと伝えて走る。


 やがて二人は最上階へ到着した。
「んで?どうすんだ?」
ユキナは階段の踊り場で天井を見上げている。
ユウゴもつられて見上げる。
その少し上には梯子があり、天井には蓋がついていた。
「あれって、屋上?」
「そう。上に昇って、入口閉めとけば見つからないと思わない?」
「そうか?逆に逃げ場がなくなるような気が……」
しかしユウゴの声は、ユキナには聞こえていないらしい。
 ユキナは近くの教室から机を持ってきて、その上に立った。
そして梯子に足をかけて、屋上への入口を開けようと力を入れた。
しかし蓋は固く閉ざされているらしく、開かない。
「ユウゴ、交代」
ユキナは机から飛び降りながら言った。
「俺、怪我人だぞ」
「男でしょ」
「……へいへい」
ユウゴは肩をすくめ、机の上に立った。
そして梯子に足をかけ、片手で入口を押す。

 鍵はかかっていないようだが動かない。
おそらく錆び付いているのだろう。
ユウゴは力を込めて、蓋を殴った。

一発、二発、三発。

さらに数回殴った後、ようやくガゴンと音を響かせながら蓋が開いた。
「よっしゃ!先に行くぞ」
言ってユウゴはそのまま屋上へ上がって行った。

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