《MUMEI》

「…お前とあいつら`十二人´の関係については、お前のその表情を答えとして認めてやろう。質問はまだあるんでな、そっちを答えてもらおう。」

俺は矢吹の気が揺れたことを察し、この問答の流れを途絶えさせない為に次の質問の話を一言に含めた。

「ふふ、そんなに焦らなくても質問には答えてあげるよ。そんな打算的に話さないで、リラックスしようよ?」

反吐が出るその提案に、俺は舌を出して吐きそうなオーバーリアクションを取った。文字で見ると少しコミカルに聞こえるかもしれないが、相当嫌悪感丸出しだったと自分でも思うほど眉間に皺を寄せていた。

「人間はこんな椅子に縛り付けられて、しかも大嫌いな奴と話しているのに、間抜けにリラックス出来るようになんて出来ていない。お前も今度俺の気持ちを少しは体感してみたらどうだ。」

「そういう経験は間に合っているよ。で、質問はいいのかい?」

矢吹は余裕そうに、今までよりも大きな動きで足を組み直した。

「…昴のことについて。俺の妹をプレイさせる為に俺の家まで押し掛けたお前なら知ってるだろ。MHOに残ったらしいプレイヤー…俺の弟だ。」

本当は、質問しなきゃいけないことは沢山あるんだろう。

矢吹慶一郎を目の前にして、ましてや質問し放題なんて状況は本当なら有り得ない筈だ。

「兄妹思いの優しいお兄ちゃんだねぇ、カケル君。それでこそ君だよ。」

それなのに、こいつに馬鹿にされてるのに、やっぱり俺は家族が大事なんだ。攻略のヒントとかそういう役立つ情報よりも、目先の大事な人達の心配が勝ってしまう。

周りの人は俺をゲーマーだと言うけれど、この実際の生死の関わるMHOのプレイングは相当なポンコツなのかもしれない。

「勿論、スバル君の事も調査済み。今もMHOを元気に飛び回っているよ。」

矢吹は右手と左手の人差し指を合わせてクルクルと回した。

「ど、何処にいるんだ!アバター名は?ギルドには所属してるのか?……今、どうしてるんだ…?」

最後の台詞は、ほとんど矢吹に言ったものではなくなっていた。

「アバター名はSubaru。ギルドは六連星【むつらぼし】。何処にいて何をしているのかは、実際に探して会うといい。きっと見つかる。」

何を根拠にそんなことを、と言おうとしてやめた。

そう、昴の立場に考えればすぐに思い付くことだった。

「スバル君もカケル君を探しているよ。新天地への鍵は手に入れたみたいだし、君より一歩リードという所かな。」

「鍵……?」

妙に引っかかる言葉だが、答えてもらえる気はしなかった。

これは攻略の進み具合の話だろう。

「大丈夫さ、カケル君も手に入れられるよ。」

今までで一番綺麗な笑顔を向けられ、心底腹が立った。

こいつがこんな大掛かりなテロもどきをしなければ、今頃もみんなで死に怯えることなく、あの素晴らしいゲームを楽しくプレイ出来ていたのに。

「…なんでお前に励まされなきゃいけねぇんだ……!」

怒りで声が震えそうになる俺を見て、矢吹はどんな顔をしていたのかはわからなかった。

俺の意識はゆっくりと確実に薄れていたからだ。

最初に飲まされた水に睡眠薬が入っていたらしい。異常な眠気に襲われた。


「……護り抜くんだよ……。」


遠退く意識で、やけに温かな矢吹の声が聞こえた。

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