《MUMEI》

突然だが、あなたは血液の匂いを嗅いだことがあるだろうか。

一般的には生臭く、鉄の様な味がするとも言われる。

要するに不快ということだ。

人間の中にも血が好きな変わり者もいるだろうが、あくまでも一般的には血は出してはいけないものであり、血液の入った瓶なんかを見たら恐怖やホラーを連想すると思う。

戦争とも縁遠い平和ボケした現代の日本の、しかも東京に、私の存在がいることはバレてはいけない。

絶対にいけないのだ。



春の陽気を遮るつば広ハットとサングラス、薄手の長袖に身を包み、私は東京の新宿駅を素早く歩く。

慣れた足取りで人を避け、いつも立ち止まる休憩スペースに腰を下ろす。

鞄の中から200mlのパック飲料を取り出し、ストローを刺して勢いよく一息で飲む。

その充満な香ばしい香りと深い味わいが鼻に抜けるのに無言で感嘆する。美味しい。

あっという間に飲み干して、休憩スペースから離れたゴミ箱に向かう。

口を離して素早くパックを捨てる。

完璧だ。

このような証拠隠滅の研鑽を積み、私の日常は安全なルーティン化されている。


私が吸血鬼だということは、今日も隠し通される筈だったのだ。



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