《MUMEI》
愉快な大学仲間(というだけではない)
「賢、おはよう」

黒縁眼鏡をかけた穏やかな風貌の青年が、一見すると女性にすら見えるぐらいのロングヘアを持つ青年に話しかけた。

「……はよ、春……」
「ふふ、眠そうだね?」

眠たげに返事を返した青年__佐鳥賢の頭をぽんぽんと撫でて、眼鏡の青年__弥生春は彼の隣に座る。

「また徹夜?」
「仕方ないじゃん……昨日の晩いきなりあらすじ送られてきてさ、できるだけ理解しようとしたんだけど」
「無理だったんだね」
「そーそー」

ぴらっ。

賢が春の目の前に1枚の紙を突き出す。
春はその紙をまじまじと見つめ、大きく息を吐いた。

「これは絶対解読不可能なやつだよ」
「お前でも読めないんじゃもう無理だな。あのバカ、メールで送れっつったのに……」

春がまあまあと賢を諌めていると、かつかつと音を立てて2人に近づいてくる足音が2つ。

「やあ、2人ともおはよう」
「おはよう、あとお前はいい加減起きろ」

霜月隼と睦月始である。
隼はいつもの意味深な笑みを浮かべて微笑み、始は夢の世界に片足突っ込んだような表情の賢を軽く叩いた。

「おはよーさーん……文句はこいつを見てから言えよ」

始に例の紙を渡すと、賢は机に突っ伏す。

「……解読する努力はしたっぽいな」
「いえす」
「なら文句はない。その代わり次のコミケでは最高の奏大本もしくは黒月さん受けを頼むぞ」
「当たり前だ」

さらりと周りに聞かれたらまずい会話をして、始は隼とじゃんけんをする。

「ああ、負けてしまったよ賢〜」
「へーへーそーかよ」

甘えてくる隼を往なしながら、賢は隣に座った始に袋を渡す。

「これはまさか……!?」
「この間の奏大オンリーで配布した無配。誤植多かったから作り直した。そのうちネットにも上げる予定」
「神か」
「少なくとも神絵師ではあるよねぇ」
「やめろ」

周りの学生は漂うイケメン達の花園感に臆して近づけもしないでいるが、話している内容はとんでもないオタク話である。

何を隠そう(いや隠せ)、彼ら3人__無論弥生春、睦月始、霜月隼のことである__は所謂腐男子というやつで、彼らの同級生である佐鳥賢は3人の憧れてやまない絵師・狐火だ。

つまりこの4人が仲良くなるのは意外と自然なことであり、それに従ってあの黒の王様でさえも無配だのコミケだのと口にしてしまうのも当然のことだった。

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