《MUMEI》 黒月大生誕祭2018(遅い)今日はいい日だ。 機嫌よく社員寮を目指しながら、今日のことを思い返す。 プロセラのPV撮影の後、寮で夕飯を食べていってくれ(ちなみに目の据わった夜に「インスタントばっかりだと栄養バランスがよくないですよ」と言われて背筋が凍った)と誘われてお邪魔した。 そしたら夕飯の後に盛大に誕生日を祝われたのだ。 かわいいかわいい、うちの子たちに。 そうやって祝われるまで、俺は今日が自分の誕生日だということを忘れていた。 家族ですらおめでとうメールも打たないぐらいに忘れ去っているのだから、てっきりあいつらだって覚えていないものと思っていたのに。 後部座席には7つのプレゼント箱。1つはグラビからだそうだ。 「はー…幸福者だな、俺は」 本当はこれで助手席に恋人でもいれば完璧なんだろうが、間の悪いことに俺の恋人はLIVEの打ち上げ真っ最中。 酒絡みの付き合いもこの業界じゃ仕方ないことだ。俺は物分かりのいいフリをしてキーを抜いた。 「…強がっても無駄なことぐらい、分かってるけどな」 ぽつんとそう零して車を降りる。 しっかりロックをかけたことを確認して、プレゼントの山を抱えて駐車場を出ようとした。その時。 「黒月っ」 「つ、きしろ?」 膝に手をついて肩で息をしている月城の姿が、そこにあった。 「よかった…ぎりぎり間に合った」 「お前、打ち上げの店から走ってきたのか!?」 「うん…っ、だって、近かったし、タクシー頼むより、走った方が…渋滞とか気にしなくていいから…」 息が整ってきて漸く顔を上げた月城。 その顔は柔らかい笑みを浮かべていた。 「手伝うよ。荷物、多いね?」 「…さっきプロセラから貰った」 「愛されてるね」 「嬉しい限りだ」 エレベーターに乗り込むと、月城の視線が横顔に注がれる。 「……なんだ」 むず痒くなって思わず問いかける。 「う、ううん」 目を逸らす月城。 問い詰めようとしたちょうどその時、目的階に着いたことを知らせる電子音声が響いた。 前へ |次へ |
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