《MUMEI》

「ん…」

陽光に瞼を叩かれて目を覚ますと、唇に柔らかい感触。

(…そういや昨日、めちゃくちゃキスしながら寝てたっけ)

俺に唇を押しつけたまま眠る恋人の寝顔を眺めていると、頬がかあっと熱くなる。
仕方がないから起きてシャワーを浴びてから朝食の準備をすることにした。

______

ハムエッグにトースト、簡単なサラダとヨーグルト。
そこにコーヒーと豆乳ラテを添えれば小洒落た朝食の出来上がりだ。

「月城、起きろ」
「ん…や…」
「嫌じゃない。仕事遅れるぞ」
「うえっ!?」
「ほら、顔洗ってこい」
「うんっ」

たたたっと洗面台に向かう月城の後ろ姿を見送って、先に食卓についてコーヒーを味わう。
戻ってきた月城がおはようのキスとやらをねだるので1回だけ唇を重ねて、2人揃って手を合わせる。

「いただきます」
「いただきます」

お互いの予定を確認しながら、朝のひとときは過ぎていった。

______

「おはよう、今日もがんばろうな」
「おはよ…って、大ちゃん何そのネクタイ」
「ああ、月城の奴に貰った」
「かわいー、似合わねー」
「うるさい。兎に罪はないだろ」

郵便物を受け取りに来たらしい陽とそんな話をしながらエレベーターを下りると、よじよじと白田が肩に登ってくる。

「おお、白田。おはよーさん」
「白田おはよー。よく乗ってるけど、大ちゃんの肩気持ちいいんかなー」
「さあな」

白田のふわふわな毛並が首筋を撫でる。
ふと、しゃらっという音がした。

「…ん?大ちゃん、シャツの下に何かつけてんの?」

陽は目敏く見つけたシルバーのチェーンを指先で摘まんで持ち上げる。
そしてシャツの下から現れた指輪を見ると、明らかに楽しんでいるような表情で聞いてきた。

「大ちゃんってもしかして下?」
「…うるさい」
「お、ビンゴかー」

一瞬怒ろうかとも思ったが、更によじ登って頭の上にまできた白田が可哀想になってデコピンだけで済ませてやった。

「いって」
「他人の関係に探りを入れるんじゃありません」
「ちぇー」

胸元で窓から射しこむ日の光を受けてきらきらと輝く指輪。
それを一度ぎゅっと握って、シャツの下に隠す。
共有ルームのドアノブを捻る俺の心は、甘い幸福に満ちていた。

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