《MUMEI》
弁論バーサーカーが司書に惚れた話
“特務司書” という肩書きを持った彼の元に僕が転生したのは、半年ほど前のことだっただろうか。

「文月時雨と申します。よろしくお願いします」

そう自己紹介して深々とお辞儀をした彼の姿は今でも昨日のことのように思い出せる。

成人男性にしては華奢すぎるような気もする体、項の辺りで切り揃えられた烏の濡羽色の髪、鶸萌色と瑠璃色の入り混じった憂いげな瞳。

なぜか守らなくてはという義務感に駆られた。

「中野先生?どうしました?」

「ん…ああ、少し考え事をね」

「そうですか」

久しぶりに外に出るのだという司書さん。
はぐれないように、その華奢な手をそっと握る。

「ふふ」

「どうしたの?」

「中野先生の手は温かいな、って」

司書さんがあんまりにも可愛くふわりと微笑んで僕の手を握るものだから。

(どうしてだろう…すごく、胸が苦しい)

走ってもいないのに、心臓の音が速くなった。

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