《MUMEI》
中野先生と男前司書の話
「司書がいなくなった」

館長の言葉を聞いた瞬間、僕は鞄をひっ掴んで図書館を飛び出した。

昼とは様相を変える毒々しいネオンがぎらぎらと光って目障りだ。

街を駆け抜けて、一通り見て回って、そこで漸く僕は独りで飛び出したことを後悔する。

その時、近くの路地から声が響いた。

「やめ、放し…っ」

聞き間違える筈もない、愛しい司書さんの声。

僕はその路地を駆けながら司書さんを呼ぶ。大声なんて出し慣れてないから喉がビリビリした。

「司書さん!!」

「な、かの、先生…?」

路地を抜けた先には広い空き地があって、司書さんは其処で15人以上の男に囲まれていた。

どうやら帰りに一杯と寄ったバーが所謂 “ゲイバー” だったらしく、ほろ酔い気味だったいい体の司書さんはあっという間に男に囲まれてしまったようだ。

驚いて固まった男達をすり抜けて司書さんがこっちに駆け寄ってくる。
その腕を引いて、もと来た道を駆ける。

「なか、せんせ、なんで」
「大切な人を守るのに、理由がいるの?」

立ち止まった満開の桜の木の下で息も絶え絶えな司書さんの質問に答えると、司書さんは顔を真っ赤にしてしまった。

そんな顔、しないで。

可愛すぎて襲っちゃいそうだから。

いや、もういっそ、その体に僕を教え込んでしまえばいいのか。

そうだ、そうしよう。

僕は司書さんの手を引いてとある建物の前に立つ。

「ちょっ、中野先生!?ここってっ」

「司書さん、ごめんね?これでもずっと我慢してたんだよ?」

レジャーホテルを見上げる司書さんの口許が、ひくりと引き攣った。

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