《MUMEI》

黒月家は何代も続く吸血鬼一族である。
その長い歴史の中、人との婚姻等によってすっかり吸血鬼の血は薄まった。
しかし。

「だぁい、調子はどう?」

「無理だ……血が飲みたい……人の生き血……海の血なんて、若くて健康なあいつのことだから、さぞ旨いんだろうな……?」

「それは否定しないけれど、海の首筋に喰らいつく大の姿は見たくないなぁ……そろそろさりげなーく血を回収してくるから、待っていて?」

「……ん、頼む」

黒月大は、吸血鬼の血を色濃く継いでいた。

といっても、普段の影響は少し普通の人間より日焼けをしやすい程度で他は普通と同じような生活を送れるほどの可愛いもの。

問題は10月である。

10月と言ったらハロウィン。

このハロウィンの日が、厄介なことこの上ないのだ。

ハロウィンの前後1週間には月が魔力を持って輝く。
その魔力は妖怪や怪物の中に眠る本能を呼び覚ます。

つまり黒月は、1週間かけてゆっくりと満ちていく魔力に引きずられるようにして吸血鬼としての本能を呼び覚まされるのだ。

「お待たせ、新鮮な血だよ。ごめんね?苦しかったよね?」

「んっく……ぷは。いや、気にするな。楽になったからいいさ」

「そう……良かったよ」

コップに注がれた赤黒い液体を一息で飲み干して、黒月は弱々しく笑った。
霜月の掌が黒月の頬を滑る。

「……少し、痩せたかな?」

「ああ……そんな気が、するな」

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