《MUMEI》
虚無の言葉。
「もう自分を嫌わないで、新斗くん」
わたしの声に微かな反応を新斗くんは示した。
聞こえてる………!
「なんであなたはそこまで………………」

「新斗は嘘を吐いたんだ」

後ろから神名くんが言う。
「嘘?」
「そう、嘘だよ。正確には君との約束を反故にしてしまったことによる結果だけどね」
嘘。
それが新斗くんを縛るもの。
罪悪感や嫌悪感の根元。
「僕は前の世界で新斗の心が折れる所を直接見ていたからね。本物の新斗はこうなってるだろうと思ってたよ」
わたしの脇を横切り、新斗くんに近付いていく神名くん。
そして、新斗くんの胸ぐらを掴み、表情を変えた。
「いつまでそうしてるつもりだ!情けねえ!」
途端に雰囲気が変わり、怒鳴り散らす。
「なんでこんなとこで腑抜けてんだ。お前のせいで世界がどうなったか知ってるのか?俺達が過ごしてた世界は消えて、別の世界が出来ちまった。その世界で俺は死んでるし、響介は植物状態で美鶴は身も心も深く傷付いた。ミクちゃんは………………どこにいるのかさえわからねえ」
その言葉一つ一つに感情が籠っている。
しかし、その言葉は新斗くんに届いていないように見える。
「お前が立ち上がれば元通りになるかもしれない。全てやり直せるかもしれない。頼むよ、立ってくれ」
神名くんの熱意。
その熱意は、新斗くんには届かない。


「………………もういい。帰ってくれ………………」


新斗くんの虚無の言葉。
「………………は?」
その一言に神名くんは言葉を失った。
「お前……………何を言ったのかわかってるのか?」
「わかってるさ………………。でも………………ボクはもう何もできない。元通り?やり直せる?そうしてどうするんだ………………また、繰り返させる気か………………?もう無理なんだよ」
新斗くんから零れる言葉は………………無感情だった。
心が折れて、全てを諦めて、闇に溶けようとしている。
そんな新斗くんは………………見ていられなかった。

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