《MUMEI》
休憩。
「新斗くん」


今の新斗くんは見ていられない。
感情の全てをシャットアウトして、話を聞こうともしない。
悔しそうに下唇を噛む神名くんは、新斗くんの胸ぐらを離し、今にも泣きそうな顔でわたしを見た。
「………………やっぱり、僕じゃ無理みたいだ。僕じゃ新斗を………………救えない」
そうしてわたしとバトンタッチする。
次は、わたしの番だ。
「………………話なんか、いらない。ボクのことはもう………………放っておいてくれ………………」
ぽつりと呟く。
「………………………………わかった」
わたしの答えに神名くんが「えっ」と素っ頓狂な声を出した。
「じゃあお話しはこれでおしまいにして、わたしがしたいことをすることにするよ」
そう言ってわたしは新斗くんと背中合わせに座った。
虚無の中にいる新斗くんでも背中には確かに温もりを感じた。
「一緒に休もう」
新斗くんは何も反応を示さない。
しかし、神名くんは戸惑ったようで、少し離れたところで体育座りした。
それからどれだけの時間が過ぎただろうか。
新斗くんの精神世界では時間の概念はない。
新斗くんの心の闇にわたし達の心が敗けるまで、ここに居続けることができる。
1分
10分
1時間
3時間
半日
刻々と過ぎていく。
朝夜変わらない空間であるために正確な時間はわからないけど、体感で10日を過ぎた頃だろうか。
ついに新斗くんは口を開いた。

「………………どうして………………こんなボクにここまでできるんだ………………」

新斗くんから伝わる背中の温もりは熱となっていた。
「だってボクは嘘を吐いた………………君との約束を守れなかった。それだけじゃない………………ボクの嘘のせいで神名や風影、天草に逆間を引き裂いてしまった………………!その罪は償わなきゃいけない」
「なっ、新斗それは………………!」
「待って神名くん。新斗くんはわたしと話しているの」
そう言うと神名くんは声を押し殺した。
「ボクは最低なんだ。ボクは3年前、記憶を失ってしまった時に3人にこう言ったんだ………………辛い記憶を思い出させないようにしようって。その結果がどうなるかなどわかりきっていた。お前達は優しすぎるから………………ボク達がバラバラになることはわかっていたんだ………………」
「それは………………」
なにかを言おうとして止まる神名くん。
「ボクは怖かったんだ………………みんなの心が離れていくのを見るのが………………だから、いっそのことそうなる前に離してしまおうと思ったんだ………………」
新斗くんの瞳から大粒の涙が溢れていく。
ようやく露にした感情は懺悔だった。
その後悔は佐久間新斗の心の奥にまで根付き、今も尚苦しめている。

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