《MUMEI》
羨望。
「新斗の苦悩は………………よくわかった」
埜嶋さんの言葉はあくまでも切っ掛けに過ぎなくて、新斗にとって一番の苦悩は僕達に嘘を吐き続けてきたことなんだ。
とても大切にしていた。
だからこそ、それを自らの手で引き裂いたことを後悔し続けている。
そして、それを今の今まで隠してきた。
その嘘を知った僕達が新斗のことをどう思うのか。
それを恐れていた。
悪循環。
心の内を吐き出せられなかった。
最後まで信用することができなかった。
それらが全て重なってしまったから、ついに心が耐えられなくなってしまった。
ようやく溢した本音は、イレギュラーなあり得ない現象のおかげで聞くことができた。
全て後手じゃないか。
新斗が僕達に縋ったあの時から、二週間あったんだ。
それなのに、僕達は新斗から話を聞くことができなかった。
なんでだよ………………!!
僕らじゃ力不足だったのか?
僕らじゃ救うことはできないのか?
誰一人としてまったく同じ心を持つ人間がいないように、苦悩をわかり合った所で感じ方は一人一人異なる。
考えすぎなんだと言ったところで、新斗が考え方をすんなり変えられるはずがない。
変われる………………はずが………………


「新斗くん………………バカなの?」


えっ。
「あなたが苦しんでる理由はわかったわ。自覚していないかもしれないけど、あなたが神名くん達を羨ましがってることもわかった」
「新斗が………………僕らを?」
「そうとしか感じられなかったけど。なっがーい時間一緒に居て記憶はなんとなく整理できた。前の世界のわたしのね」
「え、そうなの?」
「ええ。まだうっすらだけどね。………あなた達不思研部にはわからないでしょうね。新斗くんがあなた達を見てる目は、羨望の目だったと思う」
「………………そう、だったのか………………ボクは羨ましかった、のか………………自分に正直に生きるお前達を………………」
「まだ言いたい事はあるわ。あなたをバカだと言ったのは、あなたがずっと後悔ばっかりしているから」
「………………だってボクは………………」
「後悔したって過去は変わらないのはあなただって知っているでしょう?あなたがしなくてはいけないのは未来に向かって歩くことでしょう?未来ならあなたが嫌悪するあなたを変えられるかもしれないんだから」
「だとしても、ボクがしてしまった罪を帳消しにすることはできない」
「罪に縛られないで。ここに閉じ籠る事が償いじゃないわ」
「………………ッ!い、いい加減にしてくれ………!ボクはこのままでいいんだ」

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