《MUMEI》
昼下がり
昼間というものは、眠たいものだ。

人ひとりすら居ないように感じる図書館となれば、窓から覗く暖かな日差しが余計に眠りを誘う。カウンターでパソコンを見ながら、今日までの返却本の欄を眺めていると、ある友人の名が目に止まった。

「あ、カラ松くんだ」
「呼んだか?」
「……おっ、おぉ、カラ松くん」

驚いてしまったのに対し、少し首を傾けて見つめる青いパーカーの彼。さきほど呟いた名の人物、カラ松くんだ。小脇に数冊の本を抱えて。

「ごめんね、偶然居たから驚いちゃった…
この前の本の返却だね、どーぞっ」
「あぁ、大丈夫だぞ!気にするな」

彼は少し面白そうに笑っていた。返却手続きを済ませた後、何故かお互い見合ってしまっては笑みがこぼれる。眠たさが飛んでいくような彼の存在は、いつだって輝かしい。

「しかし、まだ5月なのに夏みたく暑くなる時が多いよな…」
「カラ松くんはcoolだからねぇ」

なんて、世間話で笑い合う。
……昔は彼みたくなりたかったと、思っていた事もあった。だが、何といってもやはり今この時間は楽しいものである。キラキラした彼の話に相槌を打っていると、一つ思い出したような少し重めの表情をした彼に首を傾けた。

「……なぁ、仕事ってどう思う?」
「…どう、思うって言うと?」
「ほら…定職につかないとやっぱり駄目なんだろうかと、その、読を見ていると心配になって…」
「うーん、僕は生活云々より好きな仕事してるからなぁ…」

最低限暮らせるお金を稼げれば良い、だから好きな仕事がしたい。それ一つで司書になった自分からすれば、職についての話は中々分からないものだった。身体を鍛えている彼には、スポーツジムだったり土木作業だったりのイメージがある。場合によっては警備員なんかも良いかもしれない。もし進学していたら警察官なんて似合いそうだ。

「そうか……」

やや深刻な表情で腕組みをしているのを見ると、何だか彼らしいと思ってしまう。考えているのだけれど、考えているのだけれど…と。少し愛しさすらあるものだ。そこで一つ、ふと頭によぎった言葉が不意に口からこぼれてしまった。それは__

「……此処で、一緒に仕事する?」

きっと、彼は目を瞬かせて困るだろうに。

前へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫