《MUMEI》
電話
直哉に慌ただしく立ち去られ、俺は暫く呆然としてしまった。
――寒い躰を暖めたくて、自販機でコーンスープを買う。
一口飲むと、あったかくて…同時に自分が腹を空かせている事に気付いた。
携帯を見ると、もう直ぐ日付が変わりそうだ。
終電にまだ全然間に合うけど、何となく億劫でタクシーが通らないかと辺りを見回してしまう。
プルルルルル……
「あ…」
――伊藤さんからの着信。
複雑な心境がたちまち吹っ飛んだ。
俺は、はやる気持ちを抑え、ドキドキしながらキーを押した。
「はい…」
『ゆうちゃん…、俺だけど…』
「はい、伊藤さん…」
声聞いただけで力が抜ける。安心する。
でも、でも!!
『ゆうちゃん、連絡遅れてゴメンな…、今家か?』
「いえ…まだ外です」
俺は眼を閉じ、自販機に寄りかかる。
『そっか、で、今一人?』
「…一人ですよ、…
一人で寂しい…、
伊藤さんに…
会いたい…、
会いたいよ……」
俺は指先で唇をそっと…なぞる。
そして…俺は思わず…
心の中を…口に出してしまった。
「……キスしたい…」
何…言ってんだ…
俺……
恥ずかしくて、何が何だか分かんなくて
一瞬で全身が熱った。
・
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫