《MUMEI》
溶接
「そのまま向こうの校舎に行こう」
後からユキナの声がした。
「向こうのって」
梯子からよじ登るユキナを手伝ってやりながらユウゴは聞き返す。
「さすがに、ずっとここにいたらヤバイって。いつ火が回ってくるかわかんないし」
「やっぱ、そうだよな」
ユウゴは視線を一つ向こうの校舎へ移した。

 校舎と校舎の間隔は狭く、容易に移動することができそうだ。

「けど、向こうにもさっきみたいな入口があるんじゃないか?」
校舎を渡りながらユウゴは聞いた。
「多分ね」
「どうやって塞ぐつもりだ?」
「そりゃ、二人で入口の上に乗れば――」
「下から撃たれたら?」
ユキナは喋っていた口を開けたまま、動きを止めた。
「……やっぱ、おまえに任せてると、どっかが抜けてるよな」
「なによ!じゃあ、どうするわけ?いまさら下に降りる?」
なぜかユウゴが怒られている。

 ユウゴは一つ、わざとらしいため息をつくと、さっき使ったガスボンベを取り出した。
「まだ、残ってるだろ?」
「あ、うん。あるけど」
キョトンとした表情でユキナもそれを取り出す。
「でも、どうするの?こんなの」
「いいから、貸せよ。……で、その入口はどこにあるんだ?」
ボンベを受け取りながら、ユウゴは足元を探った。
「えっと、たしか……」
言いながら、ユキナは校舎の端へ向かっていく。
そしてある一点で立ち止まり、ユウゴを呼んだ。
「ここみたい」
「よし」
ユウゴは走ってそこまで行くと、その切れ目を確認するように手でなぞった。
そしてボンベの噴射口をその切れ目に向け、間にチャッカマンを置いて火をつける。
「ちょっと下がってろ」
「え、うん」
頷くユキナが下がったことを確認して、ユウゴはボンベの頭を押した。

 放たれた炎の熱さに耐えながら、ユウゴは切れ目から外れないようにゆっくりボンベを動かしていく。
途中でガスがなくなったので、ユキナから受け取ったもう一本を使い、炎は切れ目を一周した。
「よし」
満足そうに頷きながら、ユウゴは立ち上がった。
しかしユキナは不満げだ。
「なにが、よし、なの?貴重な武器を全部使い切っちゃって」
「ほら、よく見てみろ」
ユウゴに言われ、ユキナはそこを覗き込んだ。
「……これって?」
「溶接してみた」
得意気にユウゴは胸をはる。
「……やるわね」
「だろ?」
二人は安心したようにフッと笑うと、その場に座り込んだ。

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