《MUMEI》
だって悪い魔法使い
「先生……。この子の常連だったアンタには申し訳ないが、せめてなんとか苦痛を少なく死なせては貰えないか。報酬ならアタシが。」

「死なす? バカをいってはいけない。彼女はちゃんと治るとも。むろん時間はかかるがね。」

「……それじゃだめだ。この子の借金の額を考えると、上が納得しないよ。休んだだけ不利になる……こんな様じゃ身請けだって。」

「まぁまぁ、そんな事は助かるのを確実にしてからだね――いや、私がやるなら確実じゃないわけがなかった。そんなことより実は折り入って女将に話があって今日は訪ねたのだがね……?


――――――
―――――
―――…


エーリカが目覚めると、そこは知らない天井だった。汚い布切れとは違う清潔なシーツ。清潔な服を着ている。

ハッとして顔を水鏡で見下ろせば――ささやかな痣の跡がある他にはほとんどの元通りの顔が自らを見返して怪訝そうな表情を浮かべている。

そのとき、破裂するような派手な音がして扉が開いた。見れば、冴えない痩せぎすの中年男が、トレーを両手に片足を交差させて部屋の扉を足で開け放っていた所で、彼はそのまま道化師のようなステップで枕元にトレーを置く。

「……ぁ、゙いつも手出ししてこないおじさん゙」

「んもー! 名前を言っても覚えないチャンだね君は。僕はチャールズ。ドクターチャールズだよ。 具案はどうだねエーリカちゃん。」

「……娼館にやってきて、人を抱かず最低限の料金で済ますおじさんなんて知りません。」

「ハッハッハ! だってティーンを抱く趣味はないんだもン。十年後なら間違いなく君って僕の大好きな感じの美女になるけど、羞恥心的に言ってイェスロリータ、ノータッチ。」

「……………。……あの、」

「ん? 傷? あぁごめんね。痣残しちゃって。いますぐ――。」

「そうじゃなくて。私、私あのときすごく殴られて! それで!」
彼女が甦る記憶とともに語気を強めると、茶目っ気に笑んだ不細工な中年は丸い指先で彼女の痣を撫でた。

ビクりと震えて、なにか良い募ろうとする彼女に中年は笑顔で水鏡を奨める。眉を潜めながら鏡を見れば……。


「っ、どうして。痣がない……!何を。えっ、え?」

混乱してすがるように見上げる彼女を、頬杖つきながら満足げに見やる中年は、彼女の肩に片手で毛布を上げながら歌うように答える。

「――えっ、だって私。いわゆる悪い魔法使いですから。」

エーリカの声にならない悲鳴が、病室の空気を振るわせた。

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