《MUMEI》 秘密あぁ。 行ってしまう。 私、春波 桃はおばぁちゃんのお見舞いに言ってしまった歌奏を眺める。 歌奏が、私の最後に出会う人だったんだなぁ。 そう思うと、嬉しくなる。 『春波さーん。』 『はいー。』 『準備出来ましたか?もうすぐ行きますよ。』 『分かりました。』 行きたくもない部屋。 歌奏には言っていない秘密。 私って、嘘つきだなぁ。 明日会う約束なんて、私には出来ないのに。 私は自分のアホらしさに呆れながら準備をした。 大量の洋服。 大量の食器。 大量の食料。 そして、両親が生きてた頃の写真。 『準備出来ました。』 『忘れ物無いー?』 『はい。ありません。』 そう言ってニッコリ笑う。 あぁ。 なんで私は産まれたのかな。 なんで私はみんなと違うのかな。 溢れそうになった涙を必死にこらえる。 『春波さん。泣いても良いのよ。辛いもんね。』 私の付き添いの人はそう言い、背中をさする。 でも、私は泣かない。 さっき散々泣いたから。 そのおかげで彼にも会えた。 『いいえ。大丈夫です。』 『そう。』 そして、私は付き添いの人と、ある部屋の前まで来た。 『一人で大丈夫よね?この部屋はちょっと寒いかもしれないけれど。』 付き添いの人が言った通り、部屋には長年使われていないせいか冷たい空気が漂っていた。 病院の中だと言っているが本当にそうなのか? 『私、たくさんの人と出会えて良かったです。幸せでした。』 『いいえ。こちらこそ。あなたみたいな人と一緒に居れて楽しかったわ。』 『あの。麗境 歌奏(らいきょう うた)って人が明日この病院に来ると思うんです。』 『春波さんに会いに?』 『はい。約束しちゃったんです。』 『そう。でもあなたに会わせることは出来ないわ。それが契約なのだし。』 『はい。知っています。』 『なら、どうするの?』 『あなたが彼に会ってほしいんです。』 『あなたじゃないです。福鮫 未緒那(ふくさめ みおな)です。』 『失礼しました。福鮫さん。どうか、彼に会って私がもう会えないと言うことを伝えてください。』 『あなたは、それでいいの?』 『はい。きっとすぐ忘れてしまいます。』 今までで一番の笑顔を福鮫さんに向けた。 『分かったわ。だから泣かないで。』 泣かないと決めていた。 何があっても泣かないと心に言いつけていた。 なのに。 『あれれ…?なんで?涙が止まらないや…。』 『春波さん。大丈夫よ。ちゃんと伝える。』 福鮫さんの思いが、胸に染み渡る。 『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん』 『大丈夫。大丈夫。』 私は福鮫さんの腕の中で涙が枯れるまで泣き続けた。 前へ |次へ |
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