《MUMEI》
公衆電話を見つけ、俺はそこに駆け寄る。
財布から小銭を出して、俺はかけようとした…が…
――番号…どうしよう…
携帯の中…じゃん…
ばかか、何やってんだよ…俺…
力が抜ける。
でも、気持ちが焦る…。
でも、頭ん中いっぱいいっぱいで…
泣きたい、泣きたい…
胸がいっぱいになって眼頭が熱くなってきた。
俺は…
俺は……
「おい!
ゆうちゃん!!」
「え…?」
―――100メートル程離れた先に…
先に………
立ち尽くす俺に向かい、会いたかった人が近づいて来る。
「一駅だったから…電車の方が早いだろうって思って…
はは…、正解だったな…」
伊藤さんはいつもの笑顔で、普通に…言いながら俺に近寄った…。
「俺…ごめんなさい…待ってろって言われたのに…、
すれ違って会えなくなるかもしんないのに…ヒック…、会いたかったよぉ…
会えたよぉ…」
俺は耐えられなくて、
少しでも良いから触れたくて、伊藤さんの胸元を…握りしめた。
「泣くなよ…、こんなとこで…、
こんなとこで抱きしめたくなるだろ?」
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