《MUMEI》

その日、佑十に誘われて来たカフェには、ほとんど人が居なかった。

他愛のない話をしていたら、急に佑十は話出した。

『僕は、ガンなんだ。』

佑十の口から出た言葉には、多少の驚きがあった。
もちろん、何か病気なのだということは気付いていたが。

でも、佑十は続けた。

『それで。さ。』
『もう。僕には時間が少ないんだ。』

その言葉が理解出来なかった。
きっと頭では分かっているつもりなのだろうけど、体がそれを許さなかった。

うまく理解出来なくて、俺は焦った。

「えっと。え?ぁ…え?どういうこと………?」

『僕はね、残りの命があと1年だけなんだ。』

その言葉で、やっと理解することが出来た。
佑十は、高校に入る前に死んでしまう。

「そ、それじゃぁ。果奈の事はどうなるんだよ。」

佑十は、夏野 果奈(なつの かな)という子に恋している。

『好きだけど、僕じゃ幸せに出来ないんだ……。』

佑十は、泣いた。
静かに
静かに涙を流した。

「ばか野郎!ここで諦めてどうする!短い時間だからこそ、より相手を思いやれるんだぞ!」

『で、でも_____』

「お前なら、お前だからうまくいくこともあんだかんな!!!」

『ぁ……ありがッ…ありがとうッ……』

佑十は、微笑んだ。
だから俺も、思わず頬を緩めていた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫