《MUMEI》 そこは、森の中のようだった。 木がたくさんあって薄暗い。 目覚めた私は、自分が何者なのか、どんな人物なのか分からなかった。 体を起こしてみると全身が痛い。 じんわり来るようなその痛みに耐えきれず、また仰向けになる。 それでも、何かしたかったので頑張って体を動かした。 さっきよりも、スムーズに動けた。 一歩一歩慎重に歩きながら、何かないか探した。 あいにく、何もなかった。 歩き疲れていると、何かの気配がした。 振り向くと、男の人が立っている。 こちらを向いて、手を振っているようだ。 その人が気になり、そちらに向かってまた歩き出す。 だんだんとその人の顔がはっきりしてきた。 悪くない顔立ちだ。 『こんにちは。』 あいさつをしてきたので、あいさつをした。 「こんにちは。」 『どうしたんですか?そんな薄着で。』 「ぁ……。いや、なんでもないです。」 何かを言えば何かを言う。 そんな面倒事は嫌だ。 ただでさえ今は体が痛いんだから。 その人とは、他愛もない会話をした。 自己紹介を頼まれたときは焦った。 だって、名前を思い出せないんだもの。 だから、嘘をついた。 「私はリンです。」 とっさに出てきた名前だった。 リン。 うん、いい名前。 『ところで。あなたはどうしてこちらに?』 「さぁ……?」 苦笑いをした。 そしたら、その人は一瞬睨んだ。 さっきまで、笑っていたのに。 「ぁ、あなたはどうして?」 『いやぁ。僕はね、ただ散歩をしに来ただけなんですよ。びっくりでしょ?こんな山に散歩なんて。でもね、僕は好きなんですよ。こうゆう空気。』 その人はヘラヘラと笑う。 嫌だな。 ヘラヘラ男め。 その人は一緒に散歩しないかと聞いてきた。 もちろん。 断った。 数十分話してからその人とは別れた。 にしても、本当に何もない山だな。 なんて思ってる時だった。 【ゴンッッッ】 私の頭に、何かが当たる。 鈍い音が広がった。 その音と共に、血が流れた。 ドクドクと波打つ。 一瞬何が何だか分からなくて、戸惑った。 すると、あの人の声がした。 『ちっ。手間を取らせやがって。』 その声は、さっき聞いた声とは違った。 振り向くと、その人がニィッと微笑む。 『君がここに来たのが悪いのさ。』 その瞬間、私は倒れ混む。 頭の痛みが限界まで達してしまったのだ。 そして、私は眠りについた。 前へ |次へ |
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