《MUMEI》
最後の手段
 下には大勢の警備隊がいるはずなのに、やけに静かだ。
二人を捜索しているのだろうが、物音一つしないというのは不気味すぎる。
それをユキナも感じたらしく、彼女は落ち着きなく視線をさ迷わせた。
「なあ、まさか、他に入口ないよな?」
一応、確認するようにユウゴは聞いた。
当然、「ない」という答えを期待していたのだが、彼女の口から発せられたのは「わかんない」だった。
「……勘弁してくれよ。まさか、他にもあんのか?」
「多分、この校舎にはないと思うんだけど、あっちの校舎はどうかな」
 ユキナが指したのは、二人が始めに入った、職員室がある校舎だった。
「普通、各校舎に一つずつあるよね」
「おまえ……他人事みたいに言ってんじゃねえよ。探せ!」
 ユウゴが怒鳴ったと同時に、家庭科室のあった校舎が爆発した。

 さっきよりもさらに大きな炎が噴き上がり、もうあの校舎には入れないほどになってしまった。
 二人は一瞬、そちらに視線を向けると走って校舎間を跨いだ。
そして、はいつくばるように最後の入口を探す。
間もなく、ユキナが声をあげた。
急いでその場所へ駆け寄るが、すでに二人の手には何も残されていない。

「どうすんの?」
少し、顔を強張らせてユキナが小さく言った。
「どうするって……この屋上のどっかに、なんかないか?」
「見てくるね」
ユキナは勢いよく走り出した。

ユウゴは足元を見つめながら考えた。
そして、ふと思いついたようにしゃがみ込み、その蓋に耳を押し当てる。

ほとんど何も聞こえないが、時折足音が聞こえてくる。
まだ、見つかってはいないようだ。

ここからは、できるだけ声も出さないようにしなければならない。
そう思った時、ユキナが鉄板を持って戻ってきた。

「これ、使える?」
「ああ、多分な」
言って、ユウゴは受け取る。
ずいぶん分厚く大きな鉄板だ。
おそらく、先の校舎の爆発で飛んできたのだろう。
ユウゴはそれを蓋の上にそっと置き、その上に自分も座る。
「……なにしてんの?」
「見りゃわかるだろ。入口を蓋してんだよ。おまえも乗れ」
「……最後の手段ね」
ユキナは呟くと、鉄板の半分に座った。

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