《MUMEI》

「死んで欲しいと思っています。」

は?
何言ってんだこいつ。

9月の下旬。
肌寒くなった外。
生暖かいデパート。

そこで、そう話しかけられた。

「俺、お前に何かした?」

「はい。あなたが、私を憎んだように、私もあなたを憎んでいます。」

「は?なにそれ。俺、お前知らねぇし。」

「それは嘘ですよね。私は、あなたを知っている。だから、あなたも私を知っている。」

「何言ってんの?意味わかんねぇし。俺本当にお前しらねぇよ?」

「嘘です。知っているはずです。ちゃんと見てください。」

そう言って、この女は俺に近づいた。
甘い香り。
一気に、記憶がフラッシュバックする。

「夏織(かおり)」

「ふふっ。やっぱり、覚えてるじゃないですか」

「かおり…?かお…り?か…?誰だ。誰だ誰だ。」

「忘れないって約束したでしょ?だから、絶対に忘れられないよ。」

「あぁっ。誰だ!お前!お前はかおりじゃない!」

「ひどいなぁ。」

「かおり…?なんで、忘れてるんだ。誰だお前は。かおり…?誰なんだ。誰だ誰だ誰だ誰だ!!」

「えぇー。大丈夫?相当やばいけど。」

『死んだってあなたの中で私の記憶が残っていれば、私は生き続けられるよ。』

「って、言われたことあるでしょ?」

聞き覚えのあった言葉。
あの日の約束。

「え。何?」

「ごめん。俺、やっぱ君知ってる。」

「…うん。でしょ。」

「急で悪いんだけどさ、もうちょっと一緒に居てもいいかな。」

「何?未練あんの?」

「いや、そういうんじゃないけど、さ。なんか、久しぶりじゃん?だからさ。…だめ、かな?」

「えー。だって私あんた嫌いなんだよ。」

「分かってる。もちろん、それも承知だよ。だけど、どうしても、一緒に居たいんだ。」

「まぁ、いいけど。」

「ほんと?!嬉しいよ!」

勢い余って手をギュッと握ってしまった。
君は、顔を赤らめてそっぽを向いた。

やっぱり、可愛い。

「好きだよ。」

「?!な、なに?はっ。会って数分でそれ?バカじゃないの。未練がましい変態男め。」

君は口を膨らませて睨んだ。

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