《MUMEI》 独りの少女ある日。 いつもと同じように。 「コンコン」 誰かの家の窓にノックをする。 この家の人は誰か知らないし、別に知らなくてもいいと思う。 ただの好奇心だ。 誰だって1度は冒険をしてみたくなるだろう。 それと同じさ。 あいにく、その家の持ち主は窓を開けてはくれなかった。 「なんだよ、誰かいないのか?」 部屋を覗き込んでみると1人の少女がうずくまっていた。 背中を丸めて ひとりぼっちで。 泣いているようにも見えた。 少し興味をそそられたのは嘘じゃない。 すると、彼女はちらりと俺を見た。 目が合う。 気まずい雰囲気。 彼女の目は赤く腫れていた。 涙の跡があった。 腕に傷があった。 何本もの傷だ。 髪はボサボサで ヨレヨレのTシャツを着ていた。 なんだか、冴えない少女だった。 そんな姿が昔の自分にそっくりだった。 いじめられていた頃の自分 何をしても罵られていた頃の自分 努力が報われなかった頃の自分 一つ一つが、脳内でフラッシュバックする。 彼女から目を逸らした。 助けを求めているように見えたから。 できるわけが無い。 助けていいわけない。 見ず知らずの自分に、彼女はどう思うだろう。 怖くて足がすくんだ。 今更引き返そうとは思わない。 助けてあげたい。 でも助けられない。 「助けて…………………………」 その四文字に体が反応した。 いいのだろうか。 彼女の声は消え入りそうだった。 すると彼女はおもむろに立ち上がって窓の近くに立った。 俺の左手に自分の右手を重ね合わせるように手を置く。 もちろん、その手が実際に触れるわけじゃない。 ガラス1枚の壁が彼女との間を引き裂こうとする。 「いいの?」 俺の声に彼女は反応しなかった。 まだ迷っているようだ。 でもすぐに、「いいよ」と言った。 彼女は、真っ直ぐ前を見る。 その眼差し以上に綺麗なものを、俺は知らない。 「後悔しないよ。大丈夫」 きっと彼女なら、こんな俺みたいにならなかったはずだ。 ずっと真っ直ぐ歩いて行けただろう。 でも、それが出来なかった。 「さようなら」 俺は、静かに頷き、力を込めた。 カッ!という音とともに眩い光が2人を包む。 次の瞬間には彼女の姿はなかった。 彼女は消えた。 この世界から。 誰にも知られることのなく。 今更自分が間違っていたなんて思わない。 思いたくない。 もし思ってしまったら、自分の存在が分からなくなるから。 なんのために生きてるのか。 何をしているのか。 その問いに、俺は自信満々と答えることが出来ない。 彼女なら、もう一度やり直せたかもしれない。 自分を変えられたかもしれない。 過去の俺みたいに、悪魔にすがるようなことは絶対にしなかったはずだ。 悪魔にすがって、力を手に入れて。 それでも尚この選択に迷いを感じている。 彼女は、もっと別の選択が、出来たかもしれない。 俺なんかが手を差し伸べることがダメだったかもしれない。 それでも俺は 最後の彼女の笑顔に救われていた。 俺でいいって思えた気がした。 自分が何をしているかは分かってる。 でもそれで誰かを助けられているのかもしれない。 俺は空っぽになった部屋を後に、また名前の知らない誰かの家に歩き出した。 |
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