《MUMEI》

「…な、か…、かなっ!」
「…え、」


振り返ると、幼なじみの太一が顔を覗き込んでいた。

「講義終わったぞ?」

「え?あ、ほんとだ…はは、ぼーっとしてた」

机の上のものをそそくさとしまいだす

「かな」

「ん〜?」

「何かあっただろ」

「え…」


横を見ると、いつのまにか隣の席に座ってあたしのことをじーっと見つめる太一。


「ど、どうして…?」

「顔見ればすぐにわかる。何年お前と腐れ縁だと思ってんの?」


そう言いながらあたしの頭を撫でる太一。


「たい、ち…」

「俺に言えないことなんか、ないだろ?」

「っ…、

べ、べつに何もないよっ。ほら、今日買い物行くんでしょ??行こ行こっ


!!」

ガタガタッ
「かなっ!」

席から立ち上がると、足がふらついて倒れてしまった。

でも太一が間一髪で支えてくれたおかげで、ケガは免れた。


「…あっぶねー…、かな、平気か?……かな?」

「……ぅッ…」


顔を上げてしまったら絶対泣いてしまう…
そう思って俯いたままでしかいられなくて

すると、太一がギュッと抱きしめてきた


「今チャンスだぞ、だーれもいないから、泣いちゃえッ!」

さっきとは全然違って、いつもの明るい口調でそう言われて、思わず声に出して泣いてしまった


太一は、あたしが人前で泣けないのを知っている

笑也との付き合いで、うまくいっていないことも。


「うぅっ……ぅぇーん……」

ガキみたいに、太一の胸の中で泣いていると、ドアのほうから


あの人の声がした




「何してるんだ」

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