《MUMEI》

「…」

「うぅ…、ぅー……っ、…」


「何で、黙って出て行った」

「ぅっ…」

「何も言わないで…どこに行くつもりだったんだ…」
「…」

「かな…答えろ」

「っ……」




「なら聞け。

お前は、俺があいつのこと今も引きずっていると思っているんだろうが、

俺はもう、何とも思っていない」


――うそつき


「お前に冷たい態度を取っていたのは、嫌いだったからじゃない


素直に なれなかったんだ」


――うそ


「お前がそんなに、傷ついているとは思わなかったんだ…


お前が、そばにいるのが当たり前過ぎて、何も言わなくても、何を言っても、平気だと思ってたんだ…」


「…」


「かな…



ごめんな…



好きだ」


「ぇ…」


「好きだ。
俺は、かなのことが、かなが一番、好きなんだ。


だから、どこにも行くな…

そばにいてくれ」



あのときと同じように、強く強く抱きしめられた


あたしはもう、何がなんだかわからなくて


でもはっきり聞いた

この耳で


「笑…、笑也……」


何度も名前を呼んで

同じくらい抱きしめて

笑也の広い背中に、もう二度と離れないでと誓って、必死にしがみついていた。

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