《MUMEI》

一筋の液体。

それはうっすら開いた彼女の愛らしい口元からこぼれ、重力を受け、水とは異なったわずかな粘性をもって、ゆっくりゆっくりと落ち、絨毯に、染みを。

え?

彼女は瞬きもせずにじぃっとTVに見入っている。
画面の中では大雨の中恋人たちが涙を流しながら抱き合っていた。流れる安っぽいバラード。エンドロール。

僕はもう一度彼女に視線を戻す。

薄いピンク色の唇の端に少しだけぶらさがる液体、絨毯に丸い小さな染みを作る液体、TVの中の雨、恋人たちの涙。

天使は天使のままいてはくれない。
いつも現実がつきまとう。
TVの中のように綺麗なままの物語なんて皆無なのだ。
いつだって僕たちは現実の中に生きている。

僕はそっと絨毯の染みをティッシュペーパーでふき取った。



注意点C:TV・ラジオのある場所におかないでください

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