《MUMEI》
存在
 次の日、私は約束どおり自転車を返すため、駐輪場にいた。
彼が現れるのを待った。
 「どうも、おはようございますー!」
彼は颯爽と現れた。そして私は驚いた。
彼は私の自転車に乗っていたのだ。
 「あっ、あのー昨日はありがとうございました。これっ」
と、驚きながらも私は自転車を前へ差し出した。
 「ああどうも。んで、すみませんでした。勝手に借りちゃって。ついでに直しちゃった。」
私はとても申し訳ない気がした。そこまでしてもらおうなんて思っていなかったし、余りに親切な彼に戸惑っていた。
 「ありがとうございます」
それしか言えなかった。
 「いえ、たいしたことじゃないし。僕の親父、自転車とかバイクとか好きだから。かえってもっていったら喜ばれたくらいで…」
かれは微笑し、去り際に言った。
 「僕、井坂隆史といいます!」
私が答ようとした時にはもう、彼は遥先に行ってしまっていた。
 その日から次第に、私は彼改め井坂君のことを意識し始めたのである。

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