《MUMEI》

「朗読ねー。是非聞いてみたいな。」


「お金払ってくれたらね。」

「七生!」

肘で再び小突く。


「夫婦漫才みたいだ。……ななお君って言うんだね。君は?」


「……二郎です。」


「ななお君にじろー君、二人と話せて楽しかった。どお?送るけど、」

男の人は鳴っている携帯を切り、伝票を持った。


「いえ、俺達自転車なんで」


「じゃあ、名刺あげる。ななお君の自転車壊れてたら大変でしょう?」

七生は男の人から名刺を受け取る。


「コンクールの情報、聞かせて欲しいな。」

男の人は会計してくれた。去り際に窓から手を振ってくれた。至れり尽くせり?


「いい人だね。えと、北条さん?……しゃ、社長!」

七生から見せて貰った名刺には確かに社長と書かれていた。


「社長だし、金持ちだし、おもろいおっさんではあった。でも、俺の方がカッコイイからな。」

七生はじっと見つめ、真面目に言う。


「……しっと?」

聞いてみた。


「それ以外何があるよ?」


「カッコイイって思ったのは七生の声と似てた気がするから。」


「……ホント?」


「……ホント。」

七生が太陽が照ったみたく笑った。



自転車で走行中、喧嘩をしていたことを思い出す。あの笑顔を見せられちゃ怒る気にならない。

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