《MUMEI》

「隠し事してない?」

部活の間はなんのそぶりも見せなかったのに玄関に入った途端、思い立ったみたいに言ってきた。


「……してないー。」

七生は今、コンクールに向けての練習で大切な時期だ。だから、余計な心配かけたくない。


「……あやし。」


「そうそう、最近自転車のライト代えた?」


「話そらした。まあ、乗ってやろうか。しゅーちゃんが買ってくれたんだ。」


「凄いな、もう仲良くなったの。……羨ましい、なーんてね。」


「じろーも仲良くなればいいじゃん。俺の仲良しは七生の仲良しだよ。」

ああ、もうどうしてそんなこと。学校の、それも玄関で。
投げ掛ける言葉は幼くて、真っ直ぐで、俺は眩んでしまう。


「眩んでしまうよ。」

七生しか見えなくなる。


「くら……?」

解っていない顔だ。


「北条さんはいい人だよね。子供はいるのかな。」


「亡くなったんだって。……生きてたら俺達くらいらしいよ。俺には父さんいるけどしゅーちゃん寂しそうで、友達くらいにはなりたいなって。」

どうしよ、不謹慎だけど今、目を閉じたらキスしてくれるんじゃないか。
瞼を閉じて、立ってみる。靴が手から零れた。


「……じろー?」

ほら近付いて、複雑な電波を受信して。





「あっ、まだいて良かった!ウチせんぱーい、家の鍵落としませんでしたー?」

……安西……。いいとこだったのに。

学校に良いも悪いもないか、また反省だ。堪えが効かなくなってきた。七生を求めて空の指が痙攣する。

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