《MUMEI》
多分、一種の
コンクールのドキュメント映像は農家の方々に着眼して、若い世代への問題提起と、身近に手に取っている国産の作物の大切さを伝えていく作品にした。


休日は農家の方々にアポをとって取材を頼んだり、実際の作業を手伝わせて頂いたりする。



顔出しが恥ずかしいとのことで皆で目だし棒を被ったのが楽しかった。佐藤と藤田も飲み込みが早くて教え甲斐がある。




……までは良かったんだ。


「先輩ここ、若干高めに言った方がいいですか。」

七生に神戸が課題の文を持って話している。七生もそれとなく神戸に優しく指導してて、近寄りがたい感じ。なんか、七生に懐いている気がする。


最近の部活動は映像と朗読で互いに分かれて後輩指導にあたっている。
たまに見かけたりするときは七生が神戸に熱心に指導してて話し掛けれるような空気じゃない。
俺は七生に信頼を寄せている神戸の視線を思い出すたびに腹の底が締め付けられて気持ち悪い。


俺に言った神戸の言葉が引っ掛かる。

七生は小学生の頃から野球に目覚めて中学校上がる頃にはすっかり有名人だった。野球の強豪校から推薦だって貰えるはずだった。

中三のとき、肩を痛めた。検査したら肩だけではなくほぼ全身が悪くなっていたらしい、特に足の筋肉の発達が成長期の体に負担をかけていた。


それでも、七生は隠れて自主練を繰り返して遂には倒れて入院してしまった。



中学最後の試合に出れなかったのが余程ショックだったらしい。病室でベッドに一人越しかけていた七生は小さく見えた。

人が変わったみたいに刺々しくなってしまっていて、七生にとっては自分の体より先の将来よりその目の前の試合の事の方が大切だったんだと思った。


中心に立って皆を率いてた七生がぼんやりと壁の染みを見たり始終見舞に来た人達に当たり散らしていた。皆は少しずつ距離を置いていく、一人になっていく七生を手放すことなんて、俺には出来なかった。

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