《MUMEI》
家族
『加奈子。ごめんな』

突然夫、裕紀(ゆうき)がこんなことを言うものだから、戸惑ってしまった。

ソファに座っている裕紀に背を向けるようにして洗濯物を畳んでいたので、その表情は分からない。

『な、何よ、いきなり』

振り返ってみると裕紀は優しく、辛そうな顔で微笑んでいる。

どうして・・・こんな顔をするの?

見ているこっちが泣きそうになる・・・・・・!!

加奈子は唇を噛むと俯いた。

『今宵はまだ小さいのに、お前に任せることになってしまうな。支えてやれなくて本当にごめん・・・・・・』

『何言ってるの・・・・・・?』

『お前と今宵、朔夜を残していくことだけが心残りだ。それに・・・朔夜の最後の看取りを1人でさせてしまうしな』

『っ変なこと言わないで!!!』

聞きたくない、と声を荒げて示す。

そんな・・・そんな心がつぶれそうなこと言わないで・・・・・・。

もう涙を押さえきれずに俯いて零している加奈子の頭を、裕紀は優しくポンポンと撫でた。

その大きな手の温かい感触に、また涙が溢れてくる。

『加奈子。お前はオレと朔夜、今宵と家族になったことを後悔してるか?』

加奈子は声が出ない分態度で示そうと、首を横にブンブンと振る。

それを見て裕紀は幸せそうに微笑んだ。

『オレも家族になれて本当に良かったと思ってる。
家族じゃなかったら、この間の朔夜の卒園式を見ることも出来なかったし、今宵が初めて歩いた瞬間だって見れなかったしな』

裕紀が庭で遊ぶ2人の娘に目をやると、それにつられるように加奈子も首を動かした。

はしゃいで駆け回る朔夜に、今宵がまだ拙い歩き方でよちよちと追いかけている。

『なぁ、加奈子。今宵にはオレと朔夜の病気のことを話さないでおかないか?』

『え・・・・・・?』

口元を緩めながら、活発に遊びまわっている2人を見ていた加奈子は裕紀に目線を戻した。

『どういうことなの?』

『この病気をオレの遺伝で朔夜にも患わせてしまった。医者が言うには、今宵も患う危険性はゼロではないと言っていただろ?』

『ええ・・・・・・。でも!!』

言いたいことは分かっている、と裕紀は視線で加奈子を押さえる。

『オレも今宵は立派に大きく成長してくれると思ってる。だからわざわざこのことを話して不安にさせることはないだろ?』

『そうだけど・・・・・・』

『もちろん、今宵が大きくなってからちゃんと話した方がいいことは分かってる。だけど今宵の成長の妨げになるんだったら黙っていた方がいいと思う』

お前はどう思う?という視線を向けられ、加奈子は多少迷ったが頷いた。

『私もそう思うわ』

『じゃあそうしてくれるか?板ばさみにさせて悪いが・・・・・・』

『何言ってんのよ!!今宵の為なら大丈夫よ!!』

加奈子は気合充分に頷くと、裕紀は微笑んで1言だけポツリと言った。

『ありがとう』

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