《MUMEI》

「ジロ来たんだー。ありがとな。」

七生の父さんも仕事忙しいはずなのに。


「俺は先生に頼まれてノート持ってきてるだけ……」

取っているのは俺だけど。


「入って入って!クソガキー、ジロ来たぞー!」

七生父がカーテンを大きく開けた。


「聞こえとるわクソジジ」

七生はベッドの上で漫画を読んでいた。


「じゃ、俺一服してくるから。」

七生父はさーっと掃けて行った。見えなくなるまで目で追ってしまう。


「……ヨス。これ、ノート。数学は乙矢が取ってくれてて凄い見易いから。」

目を合わせようとしない。頁をめくる音だけが響く。


「……うっせーな、お前は。」

この態度もまだマシになった。最初会ったときは布団被って出てこなかった。


「明日も来るよ。」

飴を口に運ぶ。七生は黙って口を開いた。親鳥の気持ち。包み紙を鶴に畳むのもいつもの動作。


「…………うっざぁー」

頬をモゴモゴ動かしている。


「俺ドMだからそんな素っ気ない態度だとまた来ちゃうよ?」

「帰れ帰れ。」

「またね。」

「もう来るな。」

「漫画、読み終わったら貸してな。」

最初は肘も上がってなかったのに、漫画を読めるまでになっている。






「ジロ帰るの?」

七生父と廊下で会った。


「ノート渡せたから。」

「マジ感謝してる。アイツあんな態度だけど構って欲しいんだ。」

「そんな、俺はただ押し入ってるだけで。」

「七生の引き出し見たか?ジロが折った飴の包み紙の鶴大事そうに仕舞ってんだ。」

「……うそ、だ。」

「嫌がってたリハビリもやっと始めて……」

七生、七生、早く戻って来い。俺は居るから、お前の横に居るから。

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