《MUMEI》

不安は無いと言えば嘘。

数え切れない程ある。

七生、君の横顔は凛々しくて授業中眠そうに瞼を閉じてる君を盗み見てはときめいている。

俺は七生が野球やりたいのを知っていた。グラウンドで聞こえるランニングの掛け声に耳を傾けていることも。

知っていたからこそ、またやればいいと言えなかった。以前より利き手の肩が上がらなくなって、体育のバスケでさえ思うようにいかずに悔しそうに顔を歪ませていた。


野球の特待は諦めて、普通の公立に入った七生。グラウンドを寂しそうに見つめる七生。





「自業自得だって、笑いに来たんだろ!先のことを見ないでいた馬鹿だって笑いに来たんだろ!」

始めて病室で見た七生は布団に潜って野球部代表の人達に怒鳴り散らしてた。
真摯なだけだった、野球に対してのその態度が代償行為として体を痛めた。

飴をあげたら、指先を噛まれた。血が出て、絆創膏を貼り次の日また病室に顔を出した。飴をあげると大人しく食べた。

次の日もまた次の日も行かなきゃと思った。


確かに、野球をまたしてみたらと言えば良かったのかもしれない。七生は俺にそう言ってもらうことを待っていたのかもしれない。

じゃあなんだ、やっぱり俺が悪いんじゃないか。

七生の気持ち塞いで、無理矢理放送部入れて、朗読させて……、


「沈んでいる。」

「美作もっと言ってやって!コイツ上の空で部活でも酷いんだ、フラれたんじゃないかと予測している。」

乙矢に口に出される程だったか。東屋までに気を使わせてたなんて。

「なんでもないから、」

俺はこんなだったっけ。俺って何?俺じゃなきゃいけないのかな。

「二郎、今は生徒会で忙しいけど、時間作って編集手伝いに行くから。
だから、あんまり気を張らないで、楽しんで映像作ればいいし勉強とか別のことに視野を広げればいい。
自分の目で見て感じ取ればいい。」

「美作って木下には優しいよな。」

「与えられた分しか返さないから。」

「俺が親切じゃないって言うのかよ!」

「別に言う程良くしてもらった覚えは無い。」


「……言えてるね」

会話に参加してみる。二人のやり取りが楽しかった。俺はどうやら笑えていたようだ。

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