《MUMEI》

2人分の足音だけが響く廊下。


「ちょっと…
か、梶野…」

「なに??」

「も・もうちょっとゆっくり歩いてよ…!」

「充分ゆっくりだろー?」

「うそ!あたし急ぎ足なんだか…ひゃッ!!!」


―なんか、今なんか動いた!!?


「ねえ…い、今なんか動いたって〜!!」

―もう!!何なの!?
……泣きそう…


「気のせいだって!!

…なに、もしかして怖えの??」

「なッ…!!!
こ・怖くなんか、ありませ〜ん!!」


―うそ!!
めっちゃくちゃ怖い!!!


「うそだ〜!!
顔に“怖い”って書いてあるって!」


―くそう…
あたしって、顔に出やすい!?


「…そ、そーゆーあんたは怖くないの??」


強がりで聞くと、


「ん?おれ??
…おれは怖くなんかないさ。

―君がそばにいてくれさえすれば♪」


なんて、ふざけた答えが返ってきた。


「…なにそれ」


呆れて言うと、


梶野はまたもや
『スタンド・バイ・ミー』
を口ずさみながら、


―グイッ!!


「へっ!?」


今度は

あたしの左手をつかんで

歩き出した。



―梶野の冷たい掌。


さっきまでの怖さはいつの間にか、

嘘みたいに、消えていた。

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