《MUMEI》 「じゃあ読みますね……………… 」 安西は志賀直哉の長編小説『暗夜行路』を朗読した。 父が留守の間祖父と母の過失によって生まれた時任謙作。決められた時間の中で読み切るように好きなところから始めていいことになっている。安西は謙作の苦悩が色濃い段落を選んでいた。 声はいつもより抑えめでカッコつけてるんじゃないかって言いたくなったけど、悪くない。 少し伏し目がちの視線は時任謙作の影が投影されているようだった。何か思っているのだろうか、二人で話していたときの安西が重なる。 「……いいじゃん」 「うん、以外に。」 佐藤と藤田の言う通りだ。 「出来てるじゃないか。気持ちが入っているのが解るね、息継ぎのタイミングを掴むと一定のスピードが保てて聞き易いよ。」 妾と祖父に育てられた謙作、父の家と疎遠の理由……粗削りながらも自分のものしている。 流石にまだ聞かされている感は否めないけれど。 思いの外良い反響を得て、自信を付けた安西は隣の朗読組の教室に行った。 「俺達も頑張ろう、あと一週間しかないからな!」 気付けに軽く伸びをした。 前へ |次へ |
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