《MUMEI》

「二郎いる?」

七生が先に支度を終えて顔を出しに来た。でも俺はまだ作業が残っている。東屋と二人でキレのいいとこまでやってしまいたい。


「先帰っていいよ、まだかかりそうなんだ。」

「待ってていい?」

既に上がり込んで着席している。


「邪魔しなけりゃな。」

映像組は切羽詰まっているので東屋は半ば嫌みを言った。


「わかってるって!」

言った傍から叫んでいる。つい、睨んでしまう。

両手で七生は口を塞ぐ仕草をした。







「よし、7時!」

8時過ぎると玄関がロックされるのでそれまでに帰らなければいけない。

「コイツ寝てやがる!」

東屋は七生の鼻を摘んだ。寝息が止まる。

「うう……。あと5分……」

寝ぼけとる。


「木下ぁー、どうするよこれー。」

「5分経ったらたたき起こすから放っておいていいよ。まだ7時なってないでしょう。」

「置いてきゃいーのに。ま、いつものことだからな。お先に〜。」

「……はいはいはーい。」

本当、よくやるよな。俺。七生の枕にしているのは俺の鞄だ。
逃がさないように捕らえようと狡い手を使って……。馬鹿みたい。
毎晩、遅くまで勉強しているみたいだしな……。


「ばぁか。」

宙に浮かぶようなクセのある毛先を一房摘んだ。


「……う、二郎だぁ。おはよお。」

鞄の隙間から緩慢な笑顔が見えた。華が飛んでる(ように見えた)。
両手を伸ばして甘えてくる。指のはらが頬を触り、高まる心音が合図だ。
……耳にこそばゆい息がかかる。

「……キスしていー?」

自重する術が見付からなかった。七生の口へ吸い込まれてゆく。
学校ってこんなに自由なところだったっけ?

この開放感は何かな、体が拒めない。俺の細胞って本当は、半分七生なんじゃないだろうか。だって、目を閉じても七生だもの。


最初に上唇があたって、次に感触を確かめ合うように押し付ける。顎に手がかかれば無抵抗に開口、滑らかに舌をまぜっ返す。

「……………… ッン 」

漏れていく声と共にどんどん力が入らなくなり、後ろに反ってく。決まって七生は腰を支えて床でもベッドでも(この場合机に)俺を置く。

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