《MUMEI》

若菜の矛盾、そんなものいっぱいあるじゃないか。

近隣の死体が発見されてから、記憶はない。




その日、樹は眠っていた。アヅサが若菜と会っている。一度だけではない。ホームレスの首が切られた日も。

樹は思考を巡らした。
若菜は、アヅサは何を考えているのか。

幾つも仮説が浮かぶ、今の所最有力なものは二人が何か絡んでいる場合だ。

アヅサは行動力に長けて、秘密主義、簡単にその気になれば人だって殺せるかもしれない。通り魔のときのように。

しかし、アラタが若菜を疑う理由が解らない。二人は見えないところで接点があると踏んで良さそうだ。



どうすればいいのだろう。探ればいいのか、斎藤アラタに呼ばれて若菜を目撃した場所へ。

若菜から糸が繋がっていると確信がある。

もう知らないふりは出来ない。

夜道は危険だ。若菜を見付けられるか確証が無い。
いや、もっと確実な方法があるじゃないか。

若菜がいつだか学校で話していた男……あいつを探し出せれば何か分かるかもしれない。
外から捜すより、校内の方がより確率が高まる。

それには きっかけ を作らなければ。



彼等に見覚えがあった。
そう、昔通っていた道場にいたのだ。

恐らく空手部員だろう。

部活動ならば、尻尾を捕まえられるかもしれない。

バイトも減って空いた時間は部活動に回す。






次の日、樹は空手部に入部届けを出した。


きちんと手順を踏んで得るものがある。
樹の場合は

田畑若菜であり、高柳という姓であったりした。

そこから得られたものは大塚幸太郎である自覚に




斎藤アラタ。

痺れにも似た震えを奥歯で噛み殺した。
恐れではなく、嬉々として。
失ってしまったものよりも価値のあるモノ。充分過ぎてお釣りが来るほどだ。

彼ならば踏み付けられて利用されて棄てられても構わない。
自身で望んでいた。

心の底で全て捧げられる程の絶対的支配者を待っていたのだ。

あの纖かな足先に傅きたい。俺が姓も全て失った象徴をした顔をする彼を守り抜くことこそ忘れてしまったことへの償いだ。

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