《MUMEI》
思い出
 
 今日は、久しぶりにぽかぽか暖かい陽気の日曜日で、洗濯と掃除とお風呂掃除を終えると、一樹がようやく起きて来た。

 時計は、午後二時を過ぎていた。

「おなかすいたね。」
 欠伸をしながら寝ぐせを残し、洗面台で歯磨きしながら一樹がいった。

「そうだね」
そういえば、私も朝食も昼食もまだ食べていなかった。

 言われた途端に、急に胃のあたりがぐっと重くなった気がした。

「天気もいいし、外行くか?」
デニムと白のシャツに着替えた一樹がにこにこしながら言った。
「えっ?ホント?」

 二人で外食なんて久しく行ってない。
外食するとまずい割に高くつく、が一樹の口癖だ。

 だから私は、どんなに仕事で疲れて、手抜きしたくても夕食を出来合いのお総菜で、済ませた事はなかった。
 
 一樹は極端にお金を使う事を嫌った。
 たまに遅く起きた日曜日に

「パスタでも食べに行こう」
というと手抜きだ、不経済だとこんこんと説教をされた。
 
 子供もいないし、共働きなのに質素で堅実だ。

 一樹が機嫌を損ねると、しばらく口を聞かなくなる。

 一緒に居て、重く空気が淀んでくるあの感じが私には堪らなく息苦しいので、私は、一樹に従ってしまう。

 
「今、支度するね」
私は、張り切って化粧をして口紅を引く。

「いいって、そんなの」

「だって・・・。久しぶりだし、嬉しいもん」

「早くしろよ」

 一樹も少し照れたように微笑んだ。

私達は、手を繋いで堤防沿いの道をあるいた。

 五月の柔らかい日差しに草木が眩しく輝いた。

―なんて事無い、休日。

 このまま、この瞬間冷凍して保存したい程、結婚以内初めてといえる程、満ち足りた休日だ。

 私達は、近所の洋食屋で、ハンバーグとエビドリアを食べた。

 一樹は、どうやら臨時収入(パチンコ?)があったらしく、洋食屋さんでも、いつになく饒舌で楽しそうだった。

ハンバーグを注文した一樹は、

「この店のデミグラスソース、ちょっとだけ煮込みすぎてほろ苦さが残っている。里沙の作る物のほうがやっぱりおいしい」
と言ってくれた。

 私は、最高に幸せな気分で口に運んだエビドリアの味なんかどこかにいってしまい、踵の下から序々に体の熱が上昇して、頭から突きぬけていった。


 

 今日という日を私は、絶対忘れない

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫