《MUMEI》
お話の始まり
桜舞う4月。

高校の入学式の日、あたしは、『新入生待機所』
で、マキを待っていた。

同じ中学の友達はマキしかいなかったので、
不安な気持ちでいっぱいだった。


なかなか来ない…


心配になって、パイプ椅子から立ち上がり、
マキを探しに行こうとしたその時。


―どんっ


前から歩いてきた男の子に
思いっきりぶつかってしまった。


「…!!ごめんなさい!!」


ふらふらとよろけた男の子に、慌てて謝る。


「……いえ…、ずっ…
全然、だいじょうぶです…ずずっ…」


あたしは、鼻をすすりながら
力なく答える、大きなマスクをしたその男の子のことが、
だんだん心配になってきた。


「…ほんとに大丈夫ですか??
あの、具合悪そうですよ??」

「……ただの……ずっ…花粉症なんで…」

「でも…」


見上げると、その男の子はすごい涙目だった。


ほんとに、ただの花粉症…??


なぜだか分からない。

でも、疑う必要の無いはずのその男の子の言葉が、
妙に引っかかった。


彼がとても哀しそうな瞳をしていたから、かもしれない。


どうしても放っておけなくて、
あたしはブレザーのポケットからハンカチを取り出した。


「あの、これで涙拭いてください!!返さなくていいですから!!!
…元気だして、くださいね!!」


そう言ってその男の子にハンカチを渡すと、
その場から逃げるように立ち去った。


変なヤツだと思われたかもしれない。


だって、ただの花粉症の人に対して、
赤の他人が

『元気だして』

なんて、訳がわからないもん。


―でも、

なぜかそうしなきゃいけないって思った。


なぜだか分からなかったけど―…

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