《MUMEI》

高遠は乙矢に突き飛ばされてこっちに倒れた。

頭を打ってあまりに痛そうだったからつい、手を貸してしまう。

乙矢はもう消えていて、気まずい空気が流れた。



「た、高遠……瘤とかない……?」

高遠は立ち上がると同時に近くの椅子を蹴る。

「可哀相なフラれホモに同情ですか?」

いつもの貼り付けたような笑顔がない。

「そんなつもりじゃ……あっ。」

高遠は機械みたいに素早く俺を角に追い詰めて両腕を片手で軽々拘束する。

高遠は178センチで俺より全然大きい体格だって、見られる仕事をしているせいか、しっかりしている。

「カワイソーな俺を慰めてくれるんでしょ?」

肌の上で動くものが怖い、と思った。

「高遠、止めなよ、やだって……ン、」

首に口を付けられる。

「その割に、痙攣してますよね。首がイイんでしょ?ウチ先輩とはもうしたんですか?」

やば……、じろー……!

目を閉じてしまいたかったのに、倒れた高遠のあの欠けたような瞳を思い出してしまう。
横目で高遠を見た。

「泣けないんだ……」

高遠は手を離し、弾かれたような顔をした。

横の髪が目にかかりそうになっていたからかけてやる。グリーンアッシュの髪は美容院にある雑誌の手本みたいだ。

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