《MUMEI》

嫌がらせは徐々にエスカレートしていった。

体育の間に、制服が汚されてたり
教科書が切り刻まれてたり…
―…階段で、突き落とされそうになったこともあった。


でも、誰がやってるのかがわからない。


少しずつ元気を無くしていくあたしを心配して
梶野が声を掛けてくれたけど、

また噂になるのが怖くて…
あたしは梶野を避けるようになった。


そんなある日。

トイレに入って、休み時間をやり過ごしている時だった。


「まじうぜえ」

「ね〜!!
そろそろくたばんないかなあ」

「相原幸…東郷君に手えだして、ただで済むと思ってんのかな!?」


―あたしの名前!!!
身体がかあっと熱くなる。


「さあ??…ばかだからぁ、
もっとやんなきゃわかんないんじゃない!?」


きゃははははは…


甲高い笑い声が、トイレにこだます。


―…この娘たちだ!!


話し合わなきゃ…


そうは思っても、身体がうまく動かない。


足が震える。


身体が火照って、嫌な汗が噴き出す。


…このままやりすごそうか…

そんな考えが頭をかすめた時、



“相原はそのまんまでいてくれればいーよ”



梶野の言葉が蘇った。


―足の震えがおさまった。


今なら、なんだって出来る気がする―…


「ちょっと、まって!!」


あたしは、トイレのドアを開けた。

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