《MUMEI》
はなし
「じ・じゃあ…あたしから話すね!!」

「うん」


東郷君はドアに背を預けたまま、話を聴く体勢に入った。


「あの…ね、
あたし、最近…嫌がらせ…みたいなのに遭ってたんだけど、
その原因って…『あたしと東郷君が付き合ってる』
っていう噂だったの。

えっと…東郷君には、本当に好きなひとがいるんでしょ??」


ここまで話すと、
俯いていた東郷君が、ゆっくりと顔を上げた。


「…他の女の子を
その気持ちのはけ口にしてたって、
何も変わんないと思う」


東郷君が、ドアから背中を離した。


「あの…あの、偉そうなこと言ってごめん…!!
でも、その子達…辛そうだったから…

東郷君だって…
そういう気持ち、わかるでしょ…??」


少しの沈黙のあと、
小さく笑みを携えたままの東郷君の唇が動いた。


「…それで、またトモくんに助けてもらったんだ??」

「え……」


―また、って…どういうこと…??


「…俺さ、1年前から相原さんのこと見てたんだ」

「……へ!?」


いきなり、何の話…


「高1の5月頃にさ、
相原さん、保健室に運ばれたことあったでしょ?」

「う、うん…」

「あのとき、相原さん運んだの、俺なんだ」

「…あ…、あのときはありがと…」

「―でも」

「……??」






「あのときボール投げたのもさ、


         ―…俺、なんだ。」

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