貴方の中の小悪魔
を知る神秘の占い

《MUMEI》
――序章――
 澄み切った青空に比べると、地上の風景は異質なものであった。
 血で血を洗う……とまではいかないものの、荒野を埋め尽くし、剣を振るう人間達は鮮血にまみれ、その表情には憤怒と憎悪が見て取れる。そして、その剣が制裁を与える相手は更に異質なものだった。
 一言でいえば、怪物である。
 豚にも似たその顔には、殺意と快感が共存しており、小柄な体格に相応しい二本の短剣は、三本指にしっかりと握られてその仕事をこなしていた。
「アルケイン隊長!」
 まだあどけなさの残る少年が長剣を構えて叫んだ。
「西方面にゴブリンが増えてきました。援軍を――」
 悲痛な叫び声は、小柄な怪物――ゴブリンの大群に呑み込まれた。
 赤い甲胄を身にまとった銀髪緑眼の青年が、少年の上にのしかかるゴブリン数体を長剣で斬り刻んだ。くぐもった悲鳴を上げるゴブリン達を押し退け、青年は中に埋もれている少年を見つけた。
「隊長…まだ死にたくないっス――」
 アルケインと呼ばれた青年は、少年の首筋に指を押し当てたが、少年の身体がもう動かないことを確認できただけだった。
 アルケインは大きな目を見開き、足元に倒れてきたゴブリンに止めを刺し、味方の軽歩兵をつかまえて叫んだ。
「西方面に兵力を割くよう、ここの最高指揮官に伝えろ! ゴブリンがまた増えやがった!」
 軽歩兵はその言葉に頷き、戦闘を中断して駆け出した。
「西方面に歩兵小隊を派遣する。ワート、お前が指揮を執れ!」
 彼は自分の副官に命じた。
「私がいなくなると、隊長の護衛が……」
「多少力量不足とはいえ、部下達が守ってくれるさ。これは命令だ、行け」
 アルケインの厳しい眼光がワートを見据えた。

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