《MUMEI》
優しい手
―『お前を買う』―



「分かった」


そう言うと彼は目を輝かせた。

「ありがと、秋菜!!!!」


「で……どうするの?」


「沖縄行く」


……………………え……?


沖縄………………………?


「そんな所まで行くの??」


「行く」


そんな…………。


「じゃあ5時までにココね!!俺、荷物まとめてくるから♪」


彼の笑顔は小さな子供みたいに無邪気だった…。














「飛行機乗るなんて、久しぶりだな〜」


「私…怖い…飛行機……」


高所恐怖症なわけではない。


実は私が小さいときに、親戚が飛行機事故で1人亡くなっているんだ……。


その話を聞いて私は涙も流さなかったんだっけ………。


感情なんてなかったから…。


「だいじょーぶ♪俺が隣にいるからさ!!」


そう言って彼は、私の頭を優しく撫でた。


何故か…………


凄く安心できた。








私にとって………


あなたの優しい手は"魔法の手"でした………―。













「本当に芸能界から飛び出しちゃっていいの??」


「いいんだよ。それに今は秋菜の傍にいたい」


「何で??」


「何か落ち着く」


素直に嬉しかった。


感情を失した私でも"嬉しさ"を感じる事は忘れていなかったんだ………。


「俺のこと"雅樹"って呼んでね」

「うん」










あなたは私が忘れていた大切なことを沢山、教えてくれたね。


今でもそれは忘れていない…。

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