《MUMEI》 男はそれが、今に口から出せる精一杯の言葉だった。 男は思わず、女のその膝の上に行儀良く置かれたすらりと長く白い手に触れようと、ゆっくり手を伸ばした。 その時、ガタンと車がゆれ、それと同時に女の手は男の手から離れた。 後方のトランク内の物もゴトンと転がるような音を立てるほど、思ったよりも激しく揺れた。 行き先を無くした寂しげな手をさっとハンドルに戻し、男はゆっくりと車を路肩の電灯前に停めた。 車内に差し込む電灯の淡い光が、女の鮮やかなはずの赤い服を不気味にどす黒く照らす。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |