《MUMEI》

男は少し落ち着こうと静かにため息をつく。
「飲み物買ってくる」
さっとドアを開け車外に出ると、男はその気温の低さに身震いする。
辺りは闇と静寂に包まれ、こちらに降り注ぐ街灯の光はまるでスポットライトに照らされているようで、自分たち以外は何も無い、無の世界のような不気味な感覚を覚える。
無意識にそんな辺りを見回して、街灯横にある自販機でホットの缶飲料を買い、白い息を吐きながら駆け足で車内に戻る。
女の目の前にあるホルダーに買ってきた缶のココアをそっと置く。
缶コーヒーをちびちびすすりながら、女の手を着けられていない缶のココアを横目で見つつ、男はホルダーに入れ、車を静かに発進させた。
ホルダーに立てられた二つの缶は、車の振動に揺られカタカタと時折音を立てる。

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