《MUMEI》
特別扱い
 ユウゴが目を覚ましたのはうす暗く冷たい床の上だった。
隣にはユキナもいる。
しかし、サトシの姿は見当たらない。
「……ああ、いってえな」
 意識がはっきりしてくるにつれて、体中の痛みもはっきりしてきた。
とくに左肩がひどい痛みである。
 一通り手当てはされているようだったが、最低限しかされていないようだった。

「ったく、どこだよ。ここ……」
体をゆっくり起こしながら、部屋を見回す。

狭い正方形の部屋だ。
しかし、一面だけは壁ではなく鉄格子がはめられていた。

「……牢屋?」
眉を寄せて呟きながら、ユウゴはユキナの肩を揺すった。
「おい、起きろよ」
「んー……」
唸りながら、ユキナはうっすら目を開けた。
「……どこ?ここ」
寝ぼけた顔のまま、ユキナは体を起こした。
「牢屋」
「ふーん。……なんで?」
「さあ」
ユウゴが首を傾げた時、コツコツと向こうから靴音が響いてきた。
そして、牢屋にパッと明かりがつく。

「目を覚ましたようですね」

そう言いながら格子の前に現れたのは、実行委員の実川だった。
「どーも、おっさん。四日振り」
「え、知り合い?」
ユキナがキョトンとした表情でユウゴと実川を見比べる。
「いや、まったく」
「は?」
「……ああ、そうか。君は私が担当した地区の参加者だね」
実川は無表情にユウゴを見た。
「ああ。まあな」
「わたしは違うんだけど。あんた、誰?」
「これは失礼いたしました。私、プロジェクト実行委員の実川と申します」
実川は義務的な笑みを浮かべて会釈した。
「……実川さん。なんで、わたしたちはここにいるんですか?サトシは?」
「ああ、彼は君たちよりも怪我がひどくてね。さすがにここには置いておけなかったもので、病院へ送りました」
ユキナはホッと息を吐いた。
「よかった。生きてるんだ」
「んでさ、俺たちはプロジェクト成功者なんだろ?成功者にはみんなこんな扱いをすんのか?」
ユウゴは実川に格子越しに近づいた。
「いえいえ。あなたたちは特別ですよ。なにせ、私たちに対していろいろと反抗的な行動をしてくれましたからね」
この時、初めて実川の表情に変化があった。

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